世界的な革の産地として知られるイタリア。
中でもトスカーナ州フィレンツェは、ルネサンス期、目の肥えた貴族らの高い要求に応えるため、良い環境でストレスなく育てられた牛の品質、植物から抽出したタンニンで「なめす」技術などにより、一枚一枚表情の違う、個性的で上質な皮革製品を作る技術と感性を育んできました。
「なめし」とは、皮革製品の原材料である動物の「皮」に防腐処理を施す重要な工程のことです。トスカーナの伝統的な手法「植物タンニンなめし」は、植物から抽出される渋成分「タンニン」で皮をなめす、化学物質を一切使用しない、環境に配慮した加工法です。
木の樹脂から抽出したタンニンは、原皮を丈夫で目の詰まった柔らかく心地よい手触りの革に変える主成分です。
14 世紀にルネサンスが花開いたフィレンツェで生まれたその技術は、代々、なめし職人からなめし職人へと受け継がれ、調合を工夫しながら皮革製造業の発展に寄与し、現在「トスカーナレザー」は世界一の品質として知られるようになりました。
一般的な皮革製品の加工では、原皮を切断後、塩分や汚れを落としキズがある部分を取り除いたあと、植物からの抽出物で加工処理を行い、なめした革をあらかじめ染色、カットして鞄を製造します。
このほうが余分な手間がかからず、製造時間も短縮されてコストを低く抑えられるのです。
そのため、出来上がった鞄はどれも同じ色合いや硬さで均一なものに仕上がります。
一方、こちらの工房の場合、染める前の革で先に鞄に仕上げます。
仕上がった鞄は専用のドラムに入れられ、そこで染めと洗いを同時に何度も繰り返し行います。
染めと洗いをどうやって、どれくらい繰り返すかによって、革の色合いや手触り、柔らかさが微妙に違ってくるため、この工程には長年の経験、勘、技術に加え、一般的な製法よりも余分な手間が必要になります。
しかし、このひと手間を加えることで、他の製品にはない独特のヴィンテージ風味が生まれ、時がたつほどその価値を増していくのです。